日本式サウナ(1)汗ダラ、血ドロのヒーローたち?

サウナが身体に悪いことを率直に指摘している記事はネット上にはいくつか見つかるが、決して多くはない。2,3年前から見てきているが、以下の心臓血管外科医による記事が最も詳しくかつ信頼性があるように思う。https://president.jp/articles/-/57263

非常に有益な記事なので、以下にPDFでご紹介する。ざっとでいいからぜひ目を通していただきたい。

PDF: サウナで「ととのう」はウソ

この記事の筆者は、専門家としての立場から非常に重要な警告をしてくれている。彼の指摘する「リスク」とは、以下の4つである。

リスク①  高温:サウナは異常な超高温空間 (持ち込んだ鉄アレイでやけどするほど)

リスク②  超低血圧:高温で血管が広がった状態に (血管拡張→血流不足→心筋梗塞?)

リスク③  脱水:「血管内脱水」で血管内はドロドロに(血管内の水分が抜け、血液濃度が上昇)

リスク④  悪玉高血圧:水風呂で一転「超高血圧状態」 (血管が一気に収縮、血液はドロドロ)

つまり、サウナで ダラダラ → 血液ドロドロ ?

早い話が、サウナは人工的な超高温によって血管系に大きな負荷をかけ、血液の濃度を不必要に上昇させてドロドロにする。冷静に考えれば、非常に危険な行為なのである。しかし、サウナは健康増進に役立つ、むしろ心臓にいい効果がある、などという詭弁を弄する記事がネット上にはゴロゴロしている。そうした記事の一部は医者が書いている。まるでブームを当て込んだサウナ業者と病人増加で結果的に利益を得る医者たちの双方のソロバンが符合しているかのようだ。

 

次に日本式サウナのヤバい歴史をご覧いただこう。

この年表の作成には4日かかった。やはり代表的なのは、西城秀樹と長嶋茂雄だ。この二人はわれわれに多くの貴重な教訓を残してくれている。

この年表自体が、ここ22年ほどの日本のサウナ業界の禁断の歴史とも言える。著名人だけでもこれだけいるのだから、一般人はニュースにこそならないが、途方もない数になるのではないか?サウナ業界にとっては触れられたくないタブーであろう。今のところ最新の2025年のケースとしては、「サウナで脳梗塞」というニュースでにわかに知名度を上げてしまって、笑えないお笑い芸人になった千葉ゴーがいる。39歳の若さで脳梗塞である。こんなことで名前が売れても失語症を発症しているので、喋りが仕事のお笑い芸人としての復帰は難航しているようだ。

 

 

 

 

 

 

千葉ゴーは筋トレやサウナの後のビールが何よりも好きなようだが、今回調べて分かったのは、西城秀樹とさとう珠緒も「サウナのあとのビール」が大好きだった。この3人が脳梗塞を発症したのはビールを飲んだ時ではないが、サウナ後のビールが習慣化していれば必ず脳血管に問題が生じてくるはずだ。サウナでダラダラ汗を垂らしての我慢大会のあとに居酒屋に行って冷たいビールを飲むというのはさぞや美味しいだろうし、まさに先苦後楽、「我慢したご褒美」そのものである。

さて、ビールのうまさに加えて、10年ほど前からサウナでの高温と水風呂を繰り返して得られる「ととのう」という至福感 が注目され、サウナ愛好者がめざすべき大きなご褒美となっているようだ。ちなみに長嶋茂雄は下戸だったが、ダラダラ汗をかくストイックな苦行によってこの至福感を味わっていたのかもしれない。漫画やテレビドラマに後押しされて、今や日本式サウナはこの「ととのう」という至福のひとときを得るための修行と化している。

サウナ好きにはランニング好きが多い?

さて、サウナ好きにはどうやらランニング好きが多いそうだ。両方をやっている人に言わせると、「ランナーズハイ」と「ととのう」は似ているそうだ。

調べてみると、「ランナーズハイ」は運動による身体的負荷から生じる「動的な高揚感」である。いっぽう「ととのう」はサウナの極端な温度変化という身体的負荷から生じる「静的なリラックス感」だ。前者ではエンドルフィンやドーパミンの分泌、後者ではセロトニンとオキシトシンの分泌が関わっているそうだが、肉体的限界状態に置かれた身体が脳にその苦痛を忘れさせるための一種の自己防衛メカニズムと言えるかもしれない。小児科医が注射の後に、泣く子供にキャンディーをあげて黙らせるようなものである。
この「ごほうび」が病みつきになるひとがいて、ランニングやサウナにハマるということかもしれない。とはいえ、毎回この「ごほうび」に必ずありつけるというわけではないだろうし、この「ごほうび」だけが目的でランニングをしたりサウナに行ったりするわけではないだろう。
ランニングはスポーツの一種であり、健康増進、体力鍛錬、ダイエット、マラソン出場といったはっきりした目的があるかもしれないし、単に走ることじたいが楽しいということもあるだろう。
サウナの場合はいちおうリラクゼーションの一種であり、リラックス、健康増進、ダイエット、デトックス、美容効果などといったメリットが謳われることがある。
しかし、ランニングとサウナはジャンルは異なっても、共通しているのは、どちらも苦しい状態に自分を追い込む行為であり、忍苦、我慢の営みであるという点だ。スポーツの中でもランニングはゲーム性もスリルも大した技能向上もなく、ひたすら走るという単純この上ない運動だ。だからこそイヤフォンで音楽を聴いたりできるわけだ。
いっぽうサウナが属するリラクゼーションというカテゴリにもいろいろあって、ヨガ、瞑想、アロマテラピー、マッサージ、温泉巡りなどがある。そうした中でもサウナは過酷な高温環境に身を置いてじっと耐えるという自虐的な苦行の面がある点で異質である。ランニングとサウナはそれぞれが属するカテゴリの中でもその自虐性(マゾヒズム)で際立っており、その点で非常に共通していると言える。
サウナ、ランニング、そして、筋トレ?
実はこれの仲間がもう一つある。それは筋トレである。これはスポーツのカテゴリに属するが、ランニング並みにキツいかもしれない。筋トレ愛好者は筋肉増強、健康増進のために黙々とキツいトレーニングをこなすが、極限状態のランナーやサウナーに訪れる脳内快楽物質の至福の「ごほうび」は特にない。代わりに筋トレ愛好者は自分の地道な努力によって自分の肉体をデザインして、いつの日かより魅力的な肉体美で異性を惹きつけられるようになることを「ごほうび」として歯を食いしばっているのかもしれない。(笑)
さて、最近の充実したフィットネスクラブにはこの筋トレ、ランニング、サウナの3つがすべてそろっている。さまざまなトレーニングマシーンの中でも、ランニングマシーンはどこのジムにもある。そして、ランニングやトレーニングのあとに「筋肉のリカバリー」とか言ってサウナに入るひとが少なくないようだ。ここには、強さ、忍耐力、筋肉美を追求するストイックでマッチョな世界があるのか?
ここまで見てきたように、サウナ、ランニング、筋トレにハマるタイプのメンタリティというのがありそうだ。それはどうも「先苦後楽の自虐的ストイシズム」と呼べるようなものではないか?これの意味することは、ごほうびを獲得するために目前の苦痛を我慢するということだ。ランナーズハイ、ととのう体験、マラソン大会優勝、筋肉美、というごほうびのためにつらい忍苦を受け入れるという心理構造だ。
そこで思い起こされるのが、駅伝だ。日本の正月の風物詩ともなっている駅伝とそのテレビ中継は極めて奇妙なイベントではなかろうか?正月早々、疲労困憊で苦痛に顔を歪めたランナーに声援を送る人々・・・ 
 
実は正月の国民的なイベントとして多くの日本人を熱狂させるマラソン競技の優勝者は、日本人にとってのヒーローの原型なのだ。マラソンの勝者こそ、まさしく日本人にとっての美徳である「忍耐」と「努力」の体現者そのものではなかろうか?長く続く苦難の道の果てについに栄光を掴むランナー!そうした勝者に多くの日本人が感情移入して感動するのはそのためではないか?
歴史的に日本の民衆は「文句を言わずに耐え忍ぶこと」が美徳と思い込まされてきた。能動的な「弱者を救い出す者」や「巨悪に逆らう者」よりも、ひたすら受動的に「黙って耐え忍ぶ者」が日本ではヒーローとされてきたのだ。違うだろうか?もしかしたら、この「限りない受動性」「無限の自己放棄」こそが日本人の美徳、モラル、美意識の根底にあるのだろうか?(笑)
「黙って耐え忍んでいれば、悪いようにはしない」と日本人は千年以上も上から囁かれてきたのだろうか?戦後日本の高度経済成長を背景に一世を風靡した名コピー「男は黙ってサッポロビール」には、そうした日本の卑屈なヒーロー像が読み取れないだろうか?この宣伝コピーの商業的な表層解釈ではなく民俗学的な深層解釈によれば、この名コピーは今でもまだまだ訴求力を失っていないだろう。サウナの高温環境にひたすら受動的に黙って耐えたヒーローが飲むビールのうまさは格別であるに違いない。日本では、音(ね)を上げなければ、それだけで「ヒーロー」であり、称賛され、ご褒美がもらえるのだ。(笑)
日本ではサウナ好きとランニング好きがかなりかぶる背景には、健康のため、身体のためという表向きの理由とは裏腹に、日本的な先苦後楽というストイックな精神修養の面があるのではないか?日本人の中には、 100℃という過酷な環境に音(ね)を上げずにひたすら受動的にじっと堪えることに人格陶冶の意味すら見出すようなひとがいる?そういった、汗ダラダラの「ただ黙って耐えるだけのヒーロー」が日本の津々浦々のサウナに犇(ひし)めいているのか?

次の記事では、この仮説を文化的・心理的背景から考察し、健康志向の表層的な理由とストイックな精神性がどのように絡むかを分析してみよう。

 

日本式サウナ(2)サウナは快適社会の「プチ苦行」?

 

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