核災害とは、核による大規模な被害をいうが、その”核”にはいろいろ考えられる。以下の図表をご覧いただきたい。(8つのカテゴリーの頭の数字は単なる符号であって、何らの順位もウェイトも表していない)
この図表をしばらくながめていただければ、核災害の全貌の輪郭がつかめていただけると思う。まず、”核”というものが今日の人間社会において、おもに4通りのかたちで存在しており、それらがそれぞれ2通りのかたちで核災害の原因となりうる。
”核”の存在形態
1. 核兵器(核爆弾、核ミサイル)
2.推進装置(核反応炉を動力源とした大型移動機関であるが、今日では軍事目的のものしか存在しない。核潜水艦 “nuclear submarines”、核航空母艦 “nuclear-powered carriers”。
3.上記1.2.の製造、保守に関わる施設
4.非軍事的核施設としては、発電を目的とした施設、およびそれに関連する施設がもっとも一般的である。
”核”が災害をもたらす場合
そして、上記の4つ形態で存在する”核”が、災害をもたらす目的で意図的に用いられる場合と、非意図的に災害の原因となる場合とが考えられる。実際に起こる公算の大小はさておき、可能性としては以下の8通りの対象カテゴリーが考えられる。
ちなみにカテゴリー番号の1の”核兵器の使用”は通常他国からの攻撃を想定するが、自国のテロリスト、反乱勢力が自国内で何らかの方法で使用する可能性も排除できないため、あえて”他国からの”と限定していない。
ほとんどの先進工業国は多かれ少なかれ核災害対策を講じている。核兵器”nuclear weapon” も核発電所 “nuclear power plant”(いわゆる原発)も持たない国にも核災害のリスクは存在する。自国内に核が無いのであるから、残るのは他国からの核攻撃であろう。そうすると核災害の対象カテゴリーは最低限、以下のようになるだろう。
ちなみに、世界には核を持つ国と持たない国とがある。核保有国には3通りある。核兵器と核発電所(原発)の両方を保有する国と、核発電所のみを保有する国と、核兵器のみを保有する国である。
世界の国々: 196ヶ国
核非保有国: 163ヶ国
核保有国: 33ヶ国
核としては核発電所のみを保有する国: 24ヶ国
核発電所と核兵器の両方を保有する国: 7ヶ国
核としては核兵器のみを保有する国: 2ヶ国
さて、自国がたとえ 核の無い国 “nuclear-free country” であっても、他国からの核攻撃の可能性は排除できないということをみてきたが、実はたとえ自国に核発電所がなくても、隣国に核発電所があって、それが大事故を起こせばその影響をこうむることになる。現に福島原発事故の影響は世界の多くの国々にまで及んでいる。となると、自国が たとえ “nuclear-free” であっても、核災害の対象カテゴリーは以下のように1と8なる。厳密にいえば、5,6,7の可能性も皆無ではない。
アメリカ、フランス、イギリス、ロシア、中国のような核発電所も核兵器も、そしていわゆる原子力潜水艦まで保有している国の場合の核災害の対象カテゴリーは以下のように1から8までのすべてになる。インド、パキスタンの場合は、2と6が対象外になるだろう。
それでは、日本はどうなるか。日本は核兵器は持たないが、その狭い国土に核発電所を異常に抱え込んだ国であって、その分布密度が世界一の国である。1999年には「原子力災害対策特別措置法」というものを作っているが、その中身は以下のようになる。
原子力災害対策特別措置法には、上の表でいう1のカテゴリーは当然のことながら、4のカテゴリーも設けてある。つまり、核発電所がテロ攻撃にあった場合を想定している。それはそれで必要な対策ではある。しかし、なぜ1のカテゴリーが対象となっていないのか。核発電所も核兵器も持たない国の場合をすでに見てきた。そういった国でも最低限、対象カテゴリーの1と8を考慮するはずである。
日本はすでに1のカテゴリーの核災害を経験していないだろうか?繰り返し同じ目にあうことはないと誰が決めたのか?まるで自分の番はもう終わったとでもいうような呑気さではないか?日本の場合の核災害対策としては以下のようになるように思われる。
上でも触れたが、世界には核兵器は持っても核発電所を持たない国がある。イスラエルと北朝鮮である。作りたいのだが、作らない。作れるのだが、あえて作らない。軍事的な理由である。核発電所自体が敵国からの格好の標的になるからである。核兵器を持たない国であっても通常兵器を使って相手の国の核発電所を破壊できれば、それは核兵器での攻撃に匹敵する効果を得ることができる。小さな国では1つの核発電所が破壊されて放射能が拡散するだけで壊滅的な被害をこうむる。だから作らない。”核”に反対しているからではない。それどころか”核”兵器は、しっかり作って配備していて、いつ攻撃されても即座に手痛いしっぺ返しができるようにしている。
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